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このページでは舟宿にまつわるいろんなお話、屋形舟の歴史をご紹介しております。
不定期ではございますが少しづつ更新して参りますので、お楽しみください。ぜひご意見・ご感想などお寄せください。

三味の音(しゃみのね)

桜の季節も終わり、新緑の緑がまぶしいさわやかな季節となりました。
お花見では花より団子とばかりに、ずいぶん船内で盛り上がったというお客様もいらっしゃいましたが、これからは屋形の障子を開け放ち、涼やかな川風に吹かれつつ、三味の音を肴に一献傾けるのも風流かと思われます。

三味線をひく柳橋のお姐さん
柳橋のお姐さん

今でも、お客様のご希望で三味線を入れたり、あるいはお連れになる方もいらっしゃいます。むしろ、若い方たちのほうが感激して喜んで帰っていかれます。

粋な音色の小唄・長唄の三味の音、艶っぽさの中に哀しさを感じさせる新内(しんない)の三味の音、豪快な撥(ばち)さばきの中に繊細な人の心を感じさせる津軽三味線の音。

「三味の音」と一言で言いましても、弾き手の心、三味線の音色によって、私たち聞く者にあたえる印象は様々です。

まだ東京港が今ほどにぎやかに船の行き来がない頃、津軽三味線をご希望のお客様がいらっしゃいました。屋形舟に併走しながら、屋根のない船で津軽三味線を演奏するという、粋な仕立ての出船でした。

東京港を横切り、お台場にさしかかった頃、思いがけない事態が。

やはり生の演奏は、大変な迫力です。あまりの音の響きになんとボラが驚いて、屋形舟に三匹も飛び込んできました。船の中は大騒ぎ、窓から飛び込んだボラはお姐さんのひざに当たって着物を汚してしまいました。もちろんボラも命がけだったのでしょうが、三味線の演奏の凄さを物語るエピソードだと思います。

屋形舟ではいろいろな楽しみ方ができますが、日頃聞き慣れない三味の音を身近で感じることも一興です。

お台場にビルや明かりがほとんどない頃のことです。
おだやかな秋風が吹くお台場の夜、遠くから聞こえてくるのは虫の声だけでした。
ただ一艘だけ浮かぶ屋形船。船内の明かりをすべて落とし、外からの提灯のほのかな灯りだけ…。
そこから流れてくるのは新内の唄声と三味の音。

私の最も思い出に残る三味線にまつわる情景です。

2004年5月8日

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